糸島自然研究会
2010年10月例会 九州大学伊都キャンパス(生物多様性保存ゾーン)見学
(10月13日)

瀬知 記
 10月に名古屋で国連地球生き物会議が開かれている。丁度この時期に九州大学の生物多様性保存ゾーンの見学・学習を計画したことを嬉しく思う。かねてより(九大の移転プラン決定以前、1999年頃)元岡地区の里山に、この会の設立者若宮先生に連れられてカスミサンショウウオなどの観察に行ったことを思い出す。
 10月13日(水)9時57分前原駅発の九大行きコミュニティーバスには我々の会員3名だけ。運転手さんは糸島ハムとか、これが問題の中央道路の工事が始まったとか、元気クラブの先からも九大へ乗り込む道路が出来るとか、桑原の入り口ではこの辺には家が一軒しかなかったところがこんなに変わったんですよとガイドつきだった。
 九大ビッグオレンジに着<とすでに車が6台も来て、12名もそろっておられる。我々も合流して計15名の参加である。10時20分にはすぐに開会となり、初め40分ほど九大キャンパスの概観と造成建築の様子をビデオで見せてもらった。その後、九大大学院農学研究院准教授の蔀(せつ)孝夫先生が造成の様子、生物多様性の見地から研究、着手していかれた様子をPCを使って詳しく分かりやすく12時近くまで説明してくださった。
 まず生態系保存の目標が示された。
・敷地内の生物種を一種も減らさない。
・樹林の面積を減らさない。
・竹林拡大問題への対応のモデルケースとする
・緑化に際しては地域遺伝子プールをかく乱しない。
 地元や土木建築業者との関わりの中、全敷地の4割を緑地として残したこと、如何に樹木・植物を守っていくか並大抵で無い苦労が感じられる。
 昼食後12時半から現地見学。 たまたま昨夜のテレビで、グリーンヘルパーの会でこの地区内のどんぐりの実生から育てた苗を植樹していることを放映したところは、クズが繁茂している。カスミサンショウウオのための池(コウホネの池)も作られている。 しかし、サンショウウオは生まれてからの移動では次に卵を産む時は生まれた場所に戻るとか、だから卵の時に移動させなければならないという。その外にも色々な植物を保存ゾーンに移動させられたそうであるが、キンラン・ギンランのように、なかなか根付かない難しいものもあるそうな。保存ゾーンには湧水があり残さなければならない場所でもあったとか。
 印象に残った竹林の問題がある。タケ(モウソウチク・マダケ)は、古来目本のものでなく支那からきたものであり、これは放っておくと永遠にはびこり山全体を覆いつくす。本は、10年20年の単位で成長するがタケは2・3ヶ月単位で大きくなる。なるほど。昔のように山に入って手入れをしなくなった今、如何にこれを退治していくかが課題であること。翌年笥が出ないようにしなければならない。何年もかけて研究された結果ラウンドアップという薬を地上5・60cmのところに一本一本注射され、それでも年々繰り返し5年かけてやっと根絶するそうである。ところが枯れたままのタケが突っ立っているのもまた悩みの種、どの時点で如何に処分するか問題は山積しているという。
 保存緑地と移植との一体化のために頭の下がるような工夫努力がされている。高木のままの移植は大変な作業だったろう。部分的にはたまたま元の地主がヒノキ等伐採して売却した。伐採されたその根株に新芽が伸び、それを生かして根株移植されたのだそうである。林床上と共に盛り土の斜面に、小さな森のお引越しとは嬉しい景色である。実際保存ゾーンの山の斜面を歩いた時わずかに樹木の周りがこんもりと盛り上がっているのが分かる所、自然林に近い状態に感じられる所など、それにしても、わずか10年ぐらいでこれだけの森に成長できたのは、林床上と共に引越しした結果だということである。伐採された樹木は、チップとして散布し、既存のコンクリートは砕いて再利用されたそうである。   ここ数年心配されていたナンゴクデンジソウであるが、もともとこれは、この地のもので無く、水害で稲田の苗が無くなり他所から貰った苗にくっついてやって来た種だそうである。保存ゾーンの中では、カラスザンショウ、オオバヤシャブシ、アカメガシワ、コナラ、マテバシイ、クマノミズキが多く観られる。オオバヤシャブシは長生きしない植物だそうである。よって、大木には育たないという。
 保存ゾーンの中央部は水田や大きい池、小さい池、草地などあって心地よい里山風景である。 トカラの系統のクロ毛混しりの蔀先生のアイドルヤギが3頭遊んでいる。自らの頭脳と肉体を借しまず使い、それも10年・20年という長いスパンでの研究に頭が下がる。それも楽しみながら研究されていらっしゃる。自然が大好きだからこそ続けられるのだろう。
 先生の話を聞き、歩きながらガマズミの赤い実を見つけたり、ハッカの香りを嗅いだり、サクラタデ・ヒヨドリバナに心が和む。ママコナかな?と合点がいかず、後で調べて分かったコシオガマはめずらしく、嬉しい出会いだった。
 人口的に作られた動物の小道「エコトンネル」を覗きに行くとイシミカワのトゲに危うく引っかかれそう。実と間違いそうな開かない花が魅力的な青い色で誘う。
 先生の話をもっと聞きたかったが、約束の2時10分、箱崎の校舎へ急がれて、お別れとなった。今日は、本当に有意義な観察会であった。
  「また来たいなあ」と、わたしだけの感想ではないと思う。


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