糸島自然研究会 2009年4月例会報告 [野外観察]「筑前大島」(4月12日)

橋本 あつこ
コース 宗像市神湊波止場集合〜筑前人島港〜宗像人社中津宮〜御嶽神社・展望台
     (昼食)〜沖津宮遥拝所〜安昌院〜筑前人島港〜神湊波止場にて解散

 天気は上上で、予定どおり神湊を9時35分に出港。しかし船が進むにつれて海上には霧が立ち込め、人島に着く予定の9時50分頃には濃霧が行く手を遮るほどになった。
 船は暫くスビードを緩め、何とか無事人島港へ。「こんな濃霧は珍しい」と島の人が話していた。福岡県の島の中で一番人きいと言われている筑前人島の全貌は望めないままの上陸となった。港からは、霧に浮かび頭だけ見せている幻想的な山がまず目に人る、今から行く御嶽山らしい。今日の霧を海霧と呼ぶ人がいたが、そのとおり港から離れて島内では霧を見ることは無かった。海水の温度が高いのに、今朝は少し気温が冷えたための現象だろうか。
 参加者11名で、まず宗像人社中津宮に向かう。中津官本殿は県指定文化財で宗像三女神の一神・瑞が祀られている。文化財の名に相応しい美しく荘厳な神社に詣で、この鎮守の社を包む人木のスダジイやバクチノキ、奇怪な木肌のクスドイゲ、またイヌマキ、タブノキ、ヤブツバキ、マユミ、蕾をつけたエゴ、などの原生林をゆっくり観察した。中津宮の袂にある、六百年昔のロマンスを秘めた天の川や織姫・牽牛の名を持つ場所も見学する。
 10時30分中津宮裏手の御嶽宮参道人口で、タクシー組3人と徒歩組8人に別れここから、御嶽宮のある御嶽山に向かって出発。
 雲ひとつ無い青空と、心地良い風の中の森や山は新緑に輝いている。参道は階段状に整備されていて歩きやすかった。登りだすとマムシグサやムサシアブミが勢いのいい仏炎包の花をうけていたり、海岸性植物の特徴と言われる株立ちの(一つの根株から群がり生えた)細めのマテバシイが参道にぞくぞくと立ち並んでいる。尾状花序をつけたオオバヤシャブシ(大葉夜叉五倍子)、実がこれに似ているノグルミ(野胡桃)も見える。花を下げたナルコユリに、ヤブコウジ、キジョラン、そしてウバユリは葉がやっと出揃ったところ、キヅタ、ムベ、ビナンカズラ、カラタチバナ(百両とも呼ぶらしい)花芽が付いたばかりのハクサンボクなど、植物観察しながら歩く。「うわ一綺麗、筆竜胆よ“」の声がして、山頂に近い階段には気をつけないと踏みつけそうな程沢山のフデリンドウが咲いている。
 11時22分御嶽山頂(224m)に到着。タクシーで先に着いた3人と、八重桜が八
分咲きで迎えてくれた。島の最高峰である展望台へ上がると、海を隔てる島や山が望めて、案内板によるとあの辺りが糸島の可也山らしいが、霞の中にそれらしい影だけ見えた。360度の展望と穏やかな春の海を眺めながら、ここで少し早めの昼食を摂る。
 「此処大島は、小高い山林や原野が島の大半をしめており、宅地は海辺の南側に集まっています。四方を海に囲まれているため無霜地帯という特殊な地勢で、近海は、豊富な魚介類を育む漁場となっており、漁業が島の基幹産業です。またこの島の特徴として、山は植林をしていないため、大部分が原生林であり、水が豊富で島は渇水になったことはありません。」とこれは、大島地区コミュニテイセンター事務局長・板矢英之氏に先日の予備調査の際にお聞きした説明である。板矢氏には、資料を送って貰ったり、予備調査では案内もしていただき大変お世話になった。
 集合写真を撮って、沖津宮遥拝所に向けて御嶽山を出発。下り坂をゆくと向こうの丘に風車と菜の花が、そしてサイロも見え、「あの辺は観光・レジャースポットとしての市営牧場だったらしいけど・・・」と過去形での話が聞こえてきた。大島マップにある温泉「さざなみ館Jも休館中となっていて、他所事ながら寂しい。夏場には活気が戻るのだろうか。それに比べ、道の両脇はツツジの花盛り、向こうの丘も振り返る御嶽山も、自然界は春たけなわである。新緑の山肌にヤマフジのうす紫が、あっちにもこっちにも懸かっていたり、ムベも花をつけ、桐の花も見える。ナンバンキブシは黄色の長い花房をスダレのように垂らしていて美しい。トンビがゆるやかに舞い、メジロの群れの嘴りも聞こえる。
 タチツボスミレが道沿いに群れ咲いており、大島では最も多いスミレの種。新芽が鮮やかな赤色のアカメガシワも日差しに映えている。「この芽立ちの赤は、葉表に密生する毛が赤いのよ」と富高さんの声、手にとって毛を擦ると、なるほど緑の葉に変わった。山頂からのこの道は車道になっているが、車に出会うことも無く、緑の風の中を楽しく歩き、島の北海岸の岩瀬にある沖津宮遥拝所に出た。沖津宮は海を隔てる沖ノ島にあり、今もなお女人禁制で沖の島に行けない女性たちの参拝のために、この遥拝所は建てられていると言う事で、女人である私は複雑な気持だったが一応参拝。今日の海は、青空を映してコバルトブルーに、格別美しく見える。
 厚ぽったい葉に白色の花をつけているハマハタザオに遥拝所の登りロで出会った。糸島の山などで見るスリムなハクザオとはイメージが違う海岸の砂地に生える2年草。それからホソバワダン、ダルマギク、傍にある人家の石垣にはツクシキケマンの群生も見た。
 遥拝所を出て、途中、安倍宗任の墓安昌院に寄り南海岸の大島港へ。道みち、どこにも咲いているシャクの白い花が目立つ、そのほかフユノハナワラビ、ボタンズル、コウゾリナ、ヤマアイ、オドリコソウ、タンキリマメ、マユミ、シロダモ、ヤブニッケイ、ナガバモミジイチゴ、タラ、など観察。たった1匹アマガエルも見る。「この頃はあまり見掛けないねJの声を、季節柄かしらと思いながら聞く。家の混みあう集落を通りぬけ、全員元気に14時15分大島港着。
 今朝の濃霧で大島発10時20分は欠航したらしいが、14時40分の我々の便は無事出航。船から、原生林の新緑に燃える大島を眺め、今日一日を豊かに過ごさせて貰ったことを感謝する。15時神湊波止場で解散、車3台に分乗して帰路に着いた。


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